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東京地方裁判所 昭和59年(行ウ)76号 判決

原告

黒岩由雄

被告

特許庁長官

志賀学

右指定代理人

芝田俊文

外三名

主文

本件訴えを却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

1  原告の昭和五四年実用新案登録願第七七八八二号、同第七七九九二号及び同第七七九九三号の各出願について、被告が昭和五八年三月一一日にした手続補正書不受理処分及び同五九年四月二五日にした右不受理処分に対する異議申立棄却決定をいずれも取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決

二  被告(本案前の申立)

主文と同旨の判決

第二  当事者の主張

一  原告の請求の原因

1  原告は、昭和五四年六月八日考案の名称を「スプリングのない窓拭器の揺動腕その5ワイパー・ブレードの姿勢の制御器」(同年実用新案登録願第七七八八二号)、「スプリングのない窓拭器の揺動腕その3アーム・レストのついたワイパー」(同第七七九九二号)及び「スプリングのない窓拭器の揺動腕その2動力による押圧の制御手段を持つ揺動腕」(同第七七九九三号)とする三件の実用新案登録出願(以下「本件各出願」という。)をし、同五六年六月二日本件各出願につき出願審査請求をしたところ、特許庁審査官は、原告に対し同五七年一一月一二日付け拒絶理由通知書を同五八年一月一一日発送した。

2  右通知書においては、実用新案法一三条で準用する特許法五〇条の規定による意見書の提出期間が同通知書発送の日から四〇日以内と指定されていたため、原告は、右指定期間内である昭和五八年二月一八日被告に対し、本件各出願につき意見書及び手続補正書を提出したが、右手続補正書には「追つて詳細な補正を行う。」と記載したのみであつた。

3  被告は、昭和五八年三月一一日右手続補正書を「手続不備。(注)補正の内容を追つて補充することはできない。」との理由によつて不受理とする旨の処分(以下「本件不受理処分」という。)をした。そこで、原告は、同年五月二〇日被告に対し、本件不受理処分の取消しを求めて異議の申立てをしたが、被告は同五九年四月二五日右異議の申立てを棄却する旨の決定(以下「本件異議申立棄却決定」という。)をし、同決定書謄本は同月二六日原告に送達された。

4  しかしながら、本件不受理処分及び本件異議申立棄却決定は、次のような違法事由があるから、いずれも取消しを免れない。

(一) 本件不受理処分について

特許庁審査官は、前記拒絶理由通知書において意見書の提出期間を同通知書発送の日から四〇日以内と指定したが、原告が弁理士資格を有しないこと、本件各出願の件数が三件であること及び本件各出願についてそれぞれ明細書の全項にわたる補正を必要としていたことに鑑みると、意見書の提出期間としては、出願一件につきそれぞれ四〇日、合計一二〇日が相当であつて、出願三件を一括して四〇日というのは短すぎて不合理である。そして、右不合理な期間の指定を前提とする本件不受理処分は、違法であつて、取り消されるべきである。

(二) 本件異議申立棄却決定について

原告は、本件不受理処分につき被告に対し、異議の申立をするとともに、証拠資料として、原告が前記拒絶理由通知に対応して作成した手続補正書を提出したところ、右手続補正書の記載内容に照らすと、前記四〇日以内という意見書提出期間の指定は短すぎて不合理であることが明らかである。しかるに、本件異議申立棄却決定は、右の点の判断を誤つたものであるから、違法であつて、取消しを免れない。

5  よつて、原告は、本件不受理処分及び本件異議申立棄却決定の各取消しを求める。

二  被告の本案前の主張

本件訴えは、訴えの利益を欠き不適法であるから、却下されるべきである。

すなわち、特許庁審査官は、本件各出願のうち、昭和五四年実用新案登録願第七七九九二号及び同七七九九三号の出願については同五九年一月二七日、同第七七八八二号の出願については同年五月一八日それぞれ拒絶査定をし、前者の拒絶査定謄本は同年三月七日、後者の拒絶査定謄本は同年七月一一日それぞれ原告に送達された。ところが、原告は、右各拒絶査定に対し実用新案法三五条一項所定の期間内(拒絶査定謄本送達の日から三〇日以内)に審判の請求をしなかつたため、既に右各拒絶査定は確定しており、本件各出願はその手続が終了している。したがつて、本件不受理処分及び本件異議申立棄却決定の取消しを求める本件訴えは、訴えの利益を欠く不適法なものである。

三  請求の原因に対する被告の認否

請求の原因1ないし3は認め、同4は争う。

四  本案前の主張に対する原告の反論

本件各出願について、被告主張のとおり、拒絶査定及びその謄本の送達がなされたことは認め、その余は争う。

第四  証拠関係〈省略〉

理由

本案の判断に先立つて、まず、本件訴えの適否について検討すると、本件各出願について、原告主張のとおり、本件不受理処分及び本件異議申立棄却決定・同決定書謄本の送達がなされたことは、当事者間に争いがない。

しかしながら他方、本件各出願のうち、昭和五四年実用新案登録願第七七九九二号及び同第七七九九三号の各出願については昭和五九年一月二七日、同第七七八八二号の出願については同年五月一八日それぞれ拒絶査定がなされ、前者の拒絶査定謄本は同年三月七日、後者の拒絶査定謄本は同年七月一一日それぞれ原告に送達されたことも、当事者間に争いがないところ、弁論の全趣旨によれば、原告は右各拒絶査定に対し、実用新案法三五条一項所定の期間内、すなわち、拒絶査定謄本送達の日から三〇日以内に審判の請求をしなかつたことが認められるから、右各拒絶査定はいずれも既に確定していることが明らかである。そして、本件各出願につき拒絶査定が確定している以上、右各出願手続は終了し、原告は、その出願人たる地位を失つているから、本件不受理処分及び本件異議申立棄却決定の取消しを求める本件訴えは、訴えの利益を欠き不適法といわなければならない。

よつて、本件訴えを却下することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官元木 伸 裁判官安倉孝弘 裁判官一宮和夫)

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